ひとくち健康講座

「老い」のありよう
1999年12月
右半身が不自由で、言葉の障害を持つ78歳のAさんは、今日も車いすを器用に操り、ホームの事務室にやって来ます。Aさんの目指す場所は、いつも決まって同じ机です。そこに陣取ると、忙しそうに働くスタッフを眺め、短い会話を交わし事務室を後にします。Aさんは日に何度となく同じことを繰り返します。<br> 寝たきりや老年期痴ほうは、身体のまひや脳の病変に起因し、すべての原因が身体や脳にあると説明されています。しかし、寝たきりや痴ほうの本質は、それらをきっかけとする「家庭への閉じこもり」や「孤立=孤独」にあるのです。前述のAさんは、その意味からもとても示唆的です。Aさんの行動は、いわば人と人とのつながりの確認と、自己を認め、了解してくれる世界の確認なのです。障害を持ちながらも、決して寝たきりにならないAさんのたくましい姿を、私は心強く思います。